NRCプレゼンス

『ビジネスマンがはじめて学ぶベイズ統計学』出版記念講演
「マーケティング・リサーチとベイズ統計学」

近年、統計学の重要性は増すばかりであり、その中でも「ベイズ統計学」は、既存の統計学の体系を覆す勢いでさまざまな場面で活用されている。ビル・ゲイツが、「21世紀のマイクロソフトの基本戦略は、ベイズ・テクノロジーだ」と、述べたように、実際にビジネスの意思決定上での重要性も増加している。
 本セミナーでは、朝野熙彦氏をお招きし、著書『ビジネスマンがはじめて学ぶベイズ統計学』から、ビジネスにおけるベイズ統計学の重要性についてご講演いただいた。

マーケティング・リサーチとベイズ統計学

講演者

朝野 煕彦 氏氏

朝野 煕彦 氏氏
中央大学大学院
客員教授

千葉大学文理学部卒業後、マーケティング・リサーチの企業(日本リサーチセンター)に就職し、調査部企画室で調査のイロハを学ぶ。
その後、専修大学教授、東京都立大学(現首都大学)教授、多摩大学および中央大学大学院客員教授を歴任。学習院マネジメントスクール顧問。日本行動計量学会理事。

主な著書:
 『最新マーケティング・サイエンスの基礎』講談社
 『マーケティング・リサーチ』講談社
 『入門 多変量解析の実際 第2版』講談社
 『入門 共分散構造分析の実際』講談社
 『マーケティング・サイエンスのトップランナーたち』東京図書
 『アンケート調査入門』東京図書
 『ビジネスマンがはじめて学ぶベイズ統計学』朝倉書店
  など著書多数

内容

統計学の3つの学派

近代的な統計学は、大きく分ければ3つの学派(フィッシャーの統計学、ベイズ統計学、探索的データ解析)からできている。今日では、20世紀の統計学界を席巻したフィッシャー流の推測統計学よりも、ビッグデータの解析やデータサイエンスと深く結びついたベイズ統計学と探索的データ解析の考え方の方が理念としては主流になりつつある。

厳密な正解からの決別

「ベイズの定理」の由来であるトーマス・ベイズは18世紀の長老派教会の牧師だった。エジンバラ大学で論理学と神学を学び、王立協会のフェローとなった教養人だが、不思議なことに、文系の彼に誰が数学や統計学を教えたのか、数学関係の人脈は分かっていない。しかもベイズの定理は彼の死後、遺品整理をしていた親戚のリチャード・プライスによって発表されたもので、その難しさから長い間理解されなかった。後にラプラスによって定式化され、幾つかのジャンプを経て今日のベイズの定理が使われるようになった。  
 フィッシャーの理論には、①測定が何回も繰り返せることを前提(いわば仮想的パラレルワールド)②標本統計量が変動するので、調査のたびに推定や検定の結論が変化する③サンプル規模によって利用できる統計理論が異なる④既存の常識、過去の調査結果を分析モデルに明示的に組み込めない⑤パラメータ数よりデータ数が多くなければならない、というような弱みがある。  
 一方、ベイズ統計学は、測定は1回限りの現実としてとらえることができ、また事前情報を明示的に利用でき、サンプル・サイズが少なくても推定ができる利点がある。ベイズ流の推論では、観測データと事前確率とベイズの定理で1つの式にまとめ、確率分布を更新していくというアップデートの考え方である。  
 逐次的に推定することが重要な理由として、厳密さよりも素早さが重要であるからだ。ビッグデータ時代の現在、データは途切れなく発生する。全てのデータが出揃ってから正解を出すことは、経営上無意味であり、常に暫定的な解をもって意思決定するしかない。調査においても、厳密な最終解は追求せず、暫定解でよしとする。データが完備するまで結論を控えるというストイックな姿勢を捨て、理論的に問題があっても役立てば良いというプラグマティズムが大事だ。  

調査がベイズに学ぶこと
・知識は生活者の行動を通じて刻々と深化する(行動連動型レコメンデーション、監視カメラのビデオ画像など)。
・スパムメールの教訓は、調査データを分析する際の「手抜き」精神にあり、厳密性・最適性・一意性にこだわらず
 に、個人や時代、現実にAdaptiveに対応することが大切だ。
・ワンショットでなく知識を進化させる調査に変革する。


 

ベイズ統計学のマーケティング・リサーチへの応用
~階層ベイズと空間統計学によるデータ分析~

講演者

土田 尚弘氏

土田 尚弘氏
日本リサーチセンター
ナレッジライブラリー 

シミュレーション方法による計算法の開発と、コンピューター性能の進歩により、ベイズ統計学が使われるようになった現在、通常の統計学ではできないような柔軟な統計的検証や複数の不確実性を考慮した予測ができるベイズ統計学は、今後さらにいろいろな場面で使われ、その役割が大きくなると思われる。

 ベイズ統計学で行っているのは、「情報」を得たうえで「知りたいこと」の確率や期待値を求めることであり、知りたいことに対し、事前の知識とデータに加え、他の対象者や地域など、いろいろな情報を入れ込むことができるのが、ベイズ統計学の特徴である。
選挙の当選確率のような柔軟な仮説検証や、複数の不確実性を考慮した予測が必要な利益の確度も、ベイズ統計学で知ることができる。それを踏まえ、階層ベイズ・モデルと空間統計学の紹介をしたい。

内容

マーケティング・リサーチへの応用① 階層ベイズ・モデルによるコンジョイント分析

ビッグデータの時代とはいえ、消費者行動を個人別に推定するには、データ量が少なく難しい。それに対しベイズ統計学では、周りの他の対象者の情報を入れることで、個人別のデータの少なさによるリスクをプールすることができる。  
この階層ベイズの考え方を使い分析した例としては、コンジョイント分析が挙げられる。例えば、健康増進プログラムを作成する場合、属性・水準を組み合わせて仮想的なプランを作成し、選好度を聞く。その結果、個人別の属性水準の重要度が分かり、それをプランニングに役立てることができるというのがコンジョイント分析の内容である。  
個人別にコンジョイント分析の部分効用を推定しようとすると、推定精度が低くなるので、階層ベイズ・モデルを使って、選好度データにほかの対象者の情報もプラスすることによって、通常の推定法を使うよりも極端な値を回避しながらも、個人の異質性をしっかり考慮して分析ができるという利点がある。

マーケティング・リサーチへの応用② 空間統計学による地域分析

地域分析をしようとすると、サンプル・サイズが少なく信頼性を保てない場合があるため、リスクを減らすために空間統計学を使用する。階層ベイズは他人や他の地域の情報など全体の平均を情報として使っていたが、空間統計学では隣接する情報を使う。  
空間統計学では、北海道や沖縄など隣接する地域がない場合、隣接の定義をしづらい難点がある。例えば、既婚女性の就業率は、予測力の良さを平均二乗誤差MSEで比較すると、空間統計学モデルの方が国勢調査の値に近いという結果が得られている。  

ビジネスにおけるベイズ統計学の役割>
 推定値が中心に寄りすぎる、ユニット数が少ないとうまく推定できない可能性もあるなどの問題点はあるものの、ベイズ統計学ではさまざまな情報を使って統計モデルを構築できる。階層ベイズ・モデルや空間統計学モデルでは、データの少ない個別ユニットの値をリスクを減らしながら推定することができる。  
ビジネスにおいて、データが完備するまで結論を控えるという姿勢はナンセンスである。暫定解を積極的に使うためにベイズ統計学を用いれば、さまざまなソースの情報を使って知りたいことの確度を高めることができる。また柔軟な仮説検証、複合的な不確実性のもとでの予測など、通常の統計学ではできなかった領域において、ベイズ統計学の役割は大きくなっていくと思われる。


 

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